政治家のパーティ

kotosys2005-03-24




 あなたは政治家のパーティというものに参加したことがあるだろうか。
 多くの人は参加したことがないだろうし、参加したいとも思わないだろう。
 私も政治家に興味があるわけでも、パーティというものに興味があるわけでもないから、その二つがそろい踏みときては、参加する意思などあろうはずがない。
 が、世の中には「義理」とか「付き合い」とかいうものがある。業界の絡みでわが社もその政治家に協力体制を取っていて、パーティ券も何枚かご購入。技術は今が追い込みだから連れて行くわけにもいかず、営業の人間が社長らにくっついていく事になった。
 ちなみに1枚2万円なり。国会議員のパー券としては相場らしい。



 政治家のパーティが開かれる目的は、まず第一に資金集め。合法的な資金集めとしてはもっともポピュラーなものだ。
 次に、地盤の支持者固め。支持者を集めて改めて支持を喚起する。選挙前になると、こういったパーティの他に、地元のそれこそ家一軒一軒を回る「どぶ板」といわれる手法もとられるが、その国会議員の選挙はまだ先の話だから、そこまではしない。
 支持者は、もちろん党員が主となる。
 私が行ったパーティの主役は自民党の政治家。自民党といえば、地元に利益を誘導することで支持を集めることが生命線。
 都市部では、特定の政党を支持しない無党派層が増えているというが、それでもやはり昔ながらの地縁を中心として展開される選挙活動は生き残っている。私が住んでいる地域は、首都圏の中でもそういったものが多く生き残っているといえるだろう。都市化して無党派層は増えているはずだが、無党派層は選挙に参加しない者が多いから、相対的に少数派になってしまう。もっとも、革新系候補がよく当選していたところを見ると、投票率さえ上がれば、保守にとっては苦しい都市部のひとつであることには間違いないようだ。
 市会議員、市長、県会議員、県知事の選挙があると、それら自民党地盤が総動員されるが、国会議員選となると、党派としての行動が色濃く出てくる。
 たとえば市会議員選などでは、候補者が顔見知りだったり、下手をするととなりのおじさんだったりするから、保守だ革新だというより、本人を応援するかどうかが問題になる。それが国政選挙ともなると、候補者と顔なじみになるほうが難しい*1。そうなると、個人の魅力をアピールするとともに、党の実績や今後の方策を前面に押し出して行く必要がある。比例選などは特にそうだろう。
 だが、選挙運動の核となるべきグループを育てないと、選挙の際、活動が軽くなってしまう。だから、支持者固めをするためには、政治家本人が顔を出して自らの魅力をアピールし、自分に票を託してもらえばこれだけのことができますよ、と信じさせる必要がある。党派云々ではなく、個人としての魅力が必要になる。
 ここで大切なのは、「自分たちの住む街から出た候補者は、意外に大物らしいぞ」と思わせること。
 よく、国政選挙もたけなわになってくると、各地に党のお偉いさんたちが出向いて、候補者と一緒に街宣車の上で演説をぶっていたりする光景がニュース画面に出てくる。あれなどはいい例で、当落線上にある候補者の応援ともなると、総理経験者どころか総理自身が演説に来たり、その時点でアイドル的な人気がある政治家が来たりする。
 いわば七光りだが、宣伝効果は確かにあるようだ。前回の衆院選では、私の街の駅前に自民からは総理と当時の安倍幹事長、民主からは当時の菅直人代表が来ていたのだが、どちらも駅前が完全に機能停止するほどの人を集めていた。たぶん、候補者の顔を覚える事は不可能でも、街宣車でだらだら街を回ってがなりたてているより、よほど容易に候補者の名前を覚えさせることができるはずだ。
 まあ、永田町から車で1時間もかからないという地理的な事情もある。応援に駆けつけやすいのだ。これが私が生まれ育った東北の片田舎では、なかなかこうはいかないだろう。来るのも大変なら、人を集めるのも大変だ。なにしろ全県が過疎地なのだから。



 じつは、今回の主役は国会議員ではない。元国会議員。前回の選挙では落選の憂き目にあっているのだ。今度のパーティはその出直し宣言をするためのものであり、いつあるかは未定であるにせよ、いずれ必ず来る次の選挙に向けての支持固めが目的だった。
 落ちたのは、彼自身の力量不足と本人はいっていたが、それでは理由が漠然としすぎている。
 まず、なにより無党派層の拡大。
 バブル前後以降の新規流入人口のほとんどは、さほど地縁的な関係を深めることなく住んでいる。もともと政治参加意識が薄い日本人は、地縁や血縁が無い土地に住むようになると、まず過半数が政治に対する興味を失う。というより、選挙に対する関心を失う。見ていて面白いくらいだ。そして、政治や選挙に関心を失わずにいた人間の過半数無党派層となり、土臭い自民党の選挙戦略などに反発して野党を応援する。野党といっても特別親近感のある党があるわけではなく、たいていは消去法で決めるようだが。
 自民党という政党の神通力がもはや通用しない時代になったということも、あるいはあるのだろうか。
 だが、これだけでは彼は多分落選しなかった。票差を見てもそれほど離れていたわけではないから、おそらく、次に挙げる理由が最大の敗因だろう。これは私の周囲でも一致した意見だ。
 それは、自公連立体制の局地的崩壊、というやつだ。
 公明党自民党と連立政権を組み始めてだいぶたつが、選挙でも毎回のように微妙なやり取りをしながらも協力体制を取っている。
 それが前回の選挙では、私の住む街に限っては崩壊していた。対立候補民主党だったのだが、なんと、公明党唯一の支持基盤である創価学会の会員になっていたのである。
 公明党としては自民党の候補に協力すべきなのだが、党員としては同志である学会員候補に投票したい。だがそれを公に口にしては今後の政局に関わる問題になりかねない。というわけで、公明党はもっとも現実的で姑息な手段を取った。
 わが街に関しては、党員に選挙協力を求めず、かといって誰を候補にするでも無い、自由投票の形式を取ったのだ。これで学会票が一気に民主党候補に流れ、自民党候補は僅差で敗北した。
 この民主党候補、その前の選挙では敗れている。返り咲きの手段として魂を学会に売り渡したのだ、という噂も立っていたが、彼がどの時点で信心に目覚めたのか、あるいは本当に信心なのか、そのあたりの事情を私はあまり知らないから、これ以上触れない。



 場所は地下鉄永田町駅から程近い某ホテル。その昔自民党の政治家として衆院議長を務め、政商としても類稀な悪辣さで知られた某政治家の一族が経営するホテルだ、といえば、ピンと来るかもしれない。その息子が今、毎日のようにニュースに出ている。
 私の街からは地下鉄一本という地理的な有利さもあるし、なにしろ永田町界隈に近いから、国会の会期中とはいえ政治家も集めやすい。前回の選挙直前にもパーティが開かれ、私はその時も参加させられていたのだが、その時もこのホテルを使っていた。このホテル、自民党の政治家が使うときにはかなり有利な条件で使えるという噂。
 会場は一般的な結婚式場3つ分ほどをぶち抜いた大部屋で、立食形式を取っている。たぶん、2000人ほどは集めたのだろう。到着するなり人混みに飲まれ、難渋した。
 集まっているのは、当たり前だが大半が自民党支持者。とはいっても、私のように会社やら地域のつながりで参加させられている人も結構いたはずだが、私のような若い人間は稀で、ほとんどが50代以降だった。30代未満など、数えるほどしかいなかったのではないか。



 ちなみに、私自身は自民党支持者ではない。が、党員ではある。会社の営業マンとしてはやむを得ず名前を書かされたのだが、別に一銭たりとも懐から出るわけでは無し、特定の政党支持者であるわけでもないから、都合が悪いわけでもない。気分はあまり良くないが。
 断って断れないわけではないはもちろんだが*2、私はそれほど意志が強くもない単なる日和見主義者に堕した人間だから、付和雷同は致し方ない。選挙で誰に入れるかは、党員だろうが誰だろうが投票所での書き方ひとつなわけだし。



 そんな事はどうでもいいのだが。
 もちろん最初から期待などしてはいなかったが、食事は軽食としか言い様が無いもの。ドリンクはフリーだが、酒が嫌いな私にはあまり意味がない。烏龍茶ばかりがばがば飲んでいても仕方がない。ちょっと外に出れば、パー券の10分の1の額でだいぶいいものを食えたはずなのだが、まあ、自腹ではないから文句もいえない。
 じいさんばあさんに囲まれた上に立ちっぱなしでじっとしていなければならない、というのは拷問に近い。入り口に並ぶ地元政治家の代表たちとの強制握手に始まり、おじ様たちの鬱陶しい顔を散々眺めさせられた上に、開始まで20分もあてどもなく呆然と立たされていると、さすがにうんざりする。政治家の話が始まったとき、「ああ、少しは気がまぎれるな」とほっとした自分が少し嫌いになりかけた。
 司会は国会議員。2人でやっていたが、片っぽが橋本聖子だったのは覚えている。もう片方は聞いたことが無い名前だったから、聞いたそばから忘れてしまった。
 最初にわが市の市長が出てきてなにやら叫んでいた。彼はもうじき市長選だから、すぐにその選挙応援をしてもらう立場。挨拶にも気合が乗っていた。
 次に出てきたのが安倍晋三。地元の県会議員が紹介をした後、主役の某氏(落選して議員じゃないから、某氏としかいえない)との対談形式で話を始めた。
 前日、確かインドのシン首相に小泉首相の親書を渡していたはずだがなあ、と思っていたら、やはりそうで、帰国してすぐパーティに参加したらしい。政治家が忙しいというのは事実らしい。
 話の中身は大した事はなく、というより他愛もなく、政治的に微妙な話には特に触れることもなかった。ポスト小泉候補とされる彼だから、発言には慎重になっているのだろう。
 それが終わると政治家たちが次々に登壇し、代表的なところが短く応援の挨拶をしていく。有名どころをあげると、中川昭一経済産業大臣小池百合子環境大臣武部勤自民党幹事長、綿貫民輔衆院議長など。
 衆参の議員から県会議員、市会議員までまとめて壇上に上げたから、それほど広くはなかった壇の上はえらいことになっていたが、それだけ政治家たちを集められる男なんですよ、というアピールをするためにわざとそうしたのだろう。
 まあ、わざわざ永田町の至近で開いたのだから、国会の会期中で議員の多くが在京中の今、その程度も集められなければ、党の中枢から見放されていると考えるべきだとも思うが。
 武部幹事長が、どうもこういったパーティではお定まりになっているらしい歌をひねった後、主役の前衆院議員氏が挨拶。涙ながらに語るかと思えばそうでもなく、ちょっと自民党の政治家としてやっていくには演技力が足りんのではなかろうかと思わせたりしつつも、一通りの予定は消化終了。
 彼の挨拶が終わると同時にパーティは懇談会となり、政治家たちと並んで写真を撮りたいという、どこにでも必ずいるおばちゃんたちの殺気立った波を傍観しつつ、私はなんとか鶏肉の炒め物を皿に取った。
 肉は確かに美味かった。残念なのは、他の料理を味わう前に「それじゃどこかで適当に飯でも食って帰るか」という社長の宣言が早々に出てしまったこと。
 パーティに未練など微塵も無いが、一流(一応ね)のホテルが出す軽食がどの程度のものか、無料で試せるチャンスを失うのはもったいない気がした。社長や専務などと顔をつき合わせて食事をするというのも、気が滅入る話だった。
 結局その後、翌日も平日だというのに、3時間近くも酒を飲みつつ社長らのご高説を賜る栄誉に預かり、帰宅したときには身も心もガラクタと化していた。パーティよりむしろそっちの方が疲れた。

*1:例外はある。中小企業主や業界に顔が利くレベル以上になると、呼んでもいないのに向こうから寄ってくる。

*2:個人の政治姿勢の独立は憲法でも法律でも保障されているわけだし。