相撲2
現役力士について書いてみようか、という気になった。
どうせ大した事が書けるほど詳しかったり思い入れがあるわけではないのだが、高位力士たちの何人かくらい、書いてみてもいいという気分になっている。
まずは三役。
西の小結、白鵬。
モンゴル出身力士の活躍が続いているが、血筋では随一(父はモンゴル相撲の大横綱でありレスリングの銀メダリスト)であり、素質でも飛び抜けているという評価が定着しつつあるのがこの白鵬。
入門当時は背も低く虚弱で、関取になれるかどうかすら周囲には危ぶまれていたというが、熊ヶ谷親方*1は彼の天性を見抜き、厳しい稽古をつけた。時とともに白鵬は背ものび、筋肉も付いて体が出来上がり、その白い肌と懐の深い雄偉な体格から、「白い大鵬(昭和の名横綱)」の意味で白鵬という四股名を与えられるまでになった。
彼の特徴は、まずその柔らかい体と、柔らかさを活かしきる天性の身体能力。筋肉とは、ただ付いているだけでは重りにしかならない。瞬発力も一撃の破壊力も、筋肉が柔らかく発達して行った先にあるものだ。白鵬のしなやかさは角界随一。その優れた動体視力とあいまって、土俵上でその若さからは思いもよらないほどの伸びやかな相撲を実現する。
度胸の良さも大したもので、涼しい顔で土俵を務めるその姿には、私には二代目貴乃花の姿がダブって見える気がする。もっとも、マスコミ対策用に取り澄ました顔をしていた貴乃花と違い、白鵬の場合は、若年らしい自惚れと恐れの無さがその裏打ちであるように見える。
素質は確かに一級品で、相撲勘の良さも19歳という年齢を考えれば恐るべきものではあるが、今後、調子を落としたり、あるいは稽古不足から来る勘の鈍り、負傷などの壁にぶち当たったときにどうなるか。それを乗り越えて強さを証明出来さえすれば、彼は近い将来、横綱の地位で絶大な力を見せてくれることになるはずだ。何度もいうようだが、才能はずば抜けている。
東の小結、琴光喜。
学生時代、タイトルを取って取って取りまくった学生横綱。その数27個。
鳴り物入りで佐渡ヶ嶽部屋に入門、幕下付け出し*2から一気に幕内に。平成13年9月場所では平幕*3ながら優勝を果たし、一躍大関候補となった。
だが、ここからは、関脇にまでは昇進するものの、あと一歩が出ずに大関を取り逃がしてきた。怪我の影響もあったし、大事な一番を取りこぼす悪いくせもあった。肝心なときに考えすぎて相撲の取り口がやや遅くなるという悪癖も手伝ったかもしれない。実力はあるが、どこか決め手に欠ける。そんな印象のある力士である。
そもそも、差して前へ出る早さには定評がある力士で、出足から差し切る技術は錆付いていない。落ち着いて優しい性格と伝えられるが、同門の琴ノ若のように、「勝負師としては優しすぎる」などと言われていても仕方がない。もっと迫力のある土俵捌きを見せられるようになれば、素質からいえば大関への道は決して遠くない。
ちなみに彼はめがね君だが、これがなかなか趣味がいい。美男子とはいいがたいが、めがねをかけて微笑んでいる写真を見ると、本来の知的な部分が透けて見えてくる。
西の関脇、栃東。
元大関。一度ならず二度までも大関から陥落したという記録を持つが、これから彼が挑むのは前人未到の三回目の大関昇進である。二度目の復帰、というべきなのだろうが。
実績はなかなかのもので、序ノ口から幕内まで全ての階級で優勝したという記録も持つ。付け出しデビューではなかったからこその記録ではあるが、下積みからこつこつと勝ち上がってきたからこそ得られた経験と勝負勘が、彼を下支えしている。
彼が二度も大関の座から滑り落ちる原因となったのが、いずれも左肩の骨折だった。経歴を見ると、彼が番付を落とすのは必ず怪我。特に左腕の周辺が多い。公傷制度というものがあり、相撲で怪我をした場合、番付が下がらなかったのだが(例外はある)、その制度が最近なくなり、そのとばっちりを最も受けているのが栃東だ。痛風にも悩み、食事療法を続けているというが、力士はある程度体重がないとどうにもならない面があるから、体調も体重も管理が難しいだろう。
躍進する白鵬と違い、体は決して柔らかいほうではないが、低い態勢で当たってからの追っ付けで相手を追い回しての押し出しが得意。相手の動きに合わせて左右のいなしに対応し、前進して行く彼の相撲は、玄人好みの巧みな取り口といえる。
身長がさほど高いわけではなく、身体的に恵まれているとはいいがたいが、研究熱心で常に相手の動きを読み、反省と分析を怠らずに日々精進している彼の姿勢に好感を持つ相撲ファンは多い。
もっとも、肝心な相撲で「引き落とし」「突き落とし」など、引いて勝つという悪い癖があったため、一時は批難轟々。近頃はそれも目立たなくなっているものの、少し気になるところはある。今の土俵では上位力士でも平気で引いてしまう者が少なくないから、目立たなくなっただけという醒めた見方もできなくはない。
西の関脇、雅山。
元大関。引退した武双山の父に相撲の手ほどきを受け、幕下付け出しデビューから4場所連続優勝で一気に幕内に上がったことから、平成の新怪物と呼ばれた。その過去も今は昔、という感じではあるが。
右肩にそびえ立つ巨大なこぶが印象的な力士。身体が大きく、今場所前の検査では、幕内最重量だった。
体重が重いということもあるのか、腰の重い相撲を取る。どっしりとした腰を生かしての土俵さばき、というと鈍重に思えるが、組んでも離れても相撲が取れる器用さと、土俵際でくるりと体を入れ替える身軽さもあわせ持つ。なぜこの力士が関脇などという地位に甘んじているのか、全く理解できないほどだ。
基本的には付き押し相撲、変化を嫌うというあたりに、盟友武双山との共通点を見出すことが出来るが、どうも雅山の場合、性格がおおらかすぎるのではないかと思えなくもない。
彼は細かいことにはこだわらないタイプだという。それは彼が坊ちゃん育ちだからだという者もいるが、どうなのだろうか。雅山の実家は茨城県有数の実業家一族で、彼は長男でもある。惣領息子としておおらかに育てられたから、勝負に緻密に挑めないのだ、という説もある。
これについて判断できるほど彼を知っているわけではないが、変化を嫌うくせによく引くあたりの相撲振りに、すべてが表れている気がしなくもない。
彼に必要なのは、綱の重みを自ら背負ってやろうというくらいの気合と覚悟だろう。入幕当時のはちきれんほどに張った体と、現在のややたるみの見られる体との違いは、どうも年齢的なものだけとは思えない気がするのだ。
彼も素質はある。彼に、栃東の半分ほども研究熱心さや分析能力があれば、こうもたやすく朝青龍の時代を迎えさせる事はなかったはずだ。
とはいえ、彼の存在が相撲界を明るくしている面もある。性格はいいのだ。尊敬する兄弟子、元横綱武蔵丸が引退した時に泣いていたというエピソードにも、彼の人懐っこさや血の熱さが見て取れる。マスコミの取材にも快く応じるタイプで、成績さえ付いてくればマスコミもいつだって前面に取り上げる存在なのだが。
彼らより上位は4人。
4人書いたところで、半分ということで、明日に続けたい。