液状化現象

 液状化現象という言葉をよく聞くが、意味がわかっていて使っている人と、そうでない人がいる。
「地面から水が吹き上げてくること」「地下水や水道水があふれて出てくること」
 という認識をしている人が、意外に多い。なんと、土木工学を専門学校で習ったはずの同僚にまでいたから驚いた。一緒にいた先輩が解説をしたら、「ああ、そういえばそんな事も習ったかも」などと寝ぼけたことを口にして怒られていた。まあ、測量が仕事の部署だったから、仕方ないといえばいえる。設計部の人間だったら顰蹙もの。




 液状化というのは、土が液体状になって噴出すること。水が、ではない。
 土というのは、もともと水を含んでいるが、土の微粒子は土同士で繋がっていて、そのつながりの間に水分を含んでいる。その水が多ければ泥になるわけだが、安定しているときには土と水は分離していると考えていい。
 それが地震などの大きな力が加わると、土の微粒子同士の結合がほどけてしまい、間に水が入り込む。そうすると、土の支持力がゼロに近くなる。つまり、水と同じ状態になってしまう。土の固さというものが消滅してしまうわけだ。
 すると、上に乗っかっている土や水、構造物の重さを支えきれなくなり、液状化した土はその重量に押されて一気に上に向かって吹き上げる。これを液状化現象という。




 海沿いの埋立地などで液状化現象が多いのは、水が土の間に入りやすいから。埋立地の地盤をそのまま使っては地盤の支持力が得られないから、ふつうは地盤改良をして固める。方法は色々あるが、水っぽくしたセメントを地中に流し込んで固めたり(グラウトという)、巨大な杭をはるか地下の岩盤にまで打ち込んでみたりする。
 それでも、土の間に水がしみてくるのは止められず、地震が起きるとあちこちで液状化が起きたりする。




 新潟県中越地震では、山間部にもかかわらず液状化現象が観測されたが、それはなぜか。
 地下水というものは、所構わず流れているわけではない。地面の中には、水を通しやすい層と通しにくい層とがある。土の粒子が非常に細かい粘土の層は水を通しにくく、地下水はその上にある地層に染み渡り、流れている。水を通しやすい地層のことを透水層といい、通しにくい地層を不透水層という。
 透水層を流れている水を地上に引き出す施設が、井戸。
 山間部でも、とうぜん透水層と不透水層とがあり、不透水層の上にある透水層を水が流れている。
 山間部は、実は透水層が薄いことが多い。なぜかというと、川の下流部のように、川が土砂を運んで堆積するということが少ないからだ。平野部の方が透水層が分厚い場合が多い。
 透水層が薄いと、たとえば雨が降った場合、地下にしみこんで行く水の量が土の水分含有量の許容値を超えやすい。地面が吸収しきれない水は、川に流れ込んで行くから排出されやすいが、では吸収されている水はどうかというと、地下に水の逃げ道が無いから、時間をかけて地下水として流れて行くのを待つしかない。その間、土の保水量は高いまま。
 そうしているうちに地震が起きると、土の間にあった水と土の微粒子があっという間に閾値を超え、液状化が起きる。
 それが原因となって大規模な地滑りが起きたり、液状化した土がそのまま沢筋を流れ下って土石流になったり、田んぼや畑が液状化して吹き上げた砂により壊滅的な打撃を受けたりする。