サングラス

生意気にブランド物



私は目が良い方で、今までメガネの世話になったことは一度もない。これからもしばらくはないだろう。
もっとも、そういう人間は老眼になるのが早かったりするから、あと10年もしたらメガネが手放せなくなっているかもしれない。そういえば母も目は良い方だが、老眼鏡に手を伸ばすのは早かった。



ただ、メガネ様のもの、アイウェアというものにはよく世話になっている。サングラスだ。
目が良すぎてまぶしいから、などという気はないが、まぶしいのが嫌いということは間違いない。



サングラスをよくかけるようになったのは、以前の職場で営業担当になり、四六時中運転するようになってからだった。
技術職だった頃は、多少まぶしくても我慢していた。現場に立っているときにサングラスをかけているわけにもいかないし、運転中のまぶしさも短時間なら我慢が利いたからだ。
だが、営業担当になり、移動中の姿など気にかける必要もなく、現場についてもまぶしいことなどまず無いという状況になったとき、運転中のまぶしさに耐えられなくなった。
さっそく、偏光レンズのサングラスを購入し、かけ始めた。
偏光レンズというのは、特殊なフィルターをつけたレンズのことで、正面から入ってくる光は素直に通すが、上下方向から来る反射光などをさえぎってしまうというレンズ。ブラインドによく比較される仕組みで、ごく簡単に捉えれば、フィルターがすだれのようになっていて、反射などで発生する余計な入射光をさえぎってしまう。
実際はそんなに簡単に仕組みではなく、周波数の関係で青い光を軽減したり、色々な働きがあるのだが、私もさほど詳しくはないからあまり踏み込まない。



運転しようとするとき、ただの色つきサングラスに比べ、偏光レンズの利点は、まず映り込みの少なさが挙げられる。
たとえば快晴時の運転中、フロントグラスにダッシュボードの姿が映り込んだり、ウィンドウの汚れが起こす乱反射が目に入ったりして、前方視界が悪くなってしまうことがある。偏光レンズはある程度これを抑えてくれるから、視界が確保できるし、まぶしさを感じずにすむから疲労が少ない。
路面のまぶしさももちろん低減される。普通のサングラスに比べたとき、その差がはっきりするのは、通り雨が過ぎた後の、太陽が出たときだろう。裸眼では路面が真っ白に見えてしまうようなときでも、偏光レンズをかけているとそれほど厳しい状態にはならない。普通のサングラスでは、多少まぶしさが低減されるだけの話で、路面の乱反射を抑えて見せるという器用なことはしてくれない。
また、対向車や先行車のウィンドウに太陽が映った時のまぶしさは、それこそ正面を向いて運転できないほどの場合もあるが、これもだいぶ低減してくれる。
副次的に、対向車や先行車の中がよく見える、ということも起きる。ウィンドウの乱反射を抑えるから、その中までよく見えるようになるのだ。これは、たとえば先行車のウィンドウ越しに道の先の状況を確認できるというメリットがある。



デメリットはないのかといわれれば、ある。
まず、当たり前だが、高い。値下げ幅も普通のサングラスに比べて小さいので、お得感はない。
これをデメリットといっていいのかわからないが、同じように偏光フィルターをかけることで成立している液晶画面などは、角度によってまったく見えなくなることがある。たとえば携帯の画面をくるりと90度回転させると、ただの黒い枠になってしまったりする。
それから、フィルターをレンズに貼っているという構造上、水には弱い。メガネのように超音波洗浄器など使うと、最悪フィルターがはがれてしまう。フィルター自体も水に弱く、変質を起こして一部分だけまったく見えなくなったりすることがある。



退職して、私は車に乗る機会をまったく失った。自分の車を持っていないからだ。
車は好きだし、運転するのも好きなのだが、金がないという厳然たる事実の前には、いかんともしがたい。
今シーズンに入って突然、まったく見なくなってしまったF1だが、友人の間では私のF1マニアぶりは有名で、それ以外のレースもよく見ていたから、私が車を持たずにいるということは、以前いた技術部署の七不思議のひとつとされていた。何もそんなに大げさにいわなくても、と思ったりもしたが。
おかげで、サングラスをかける機会も失った。
はずだった。



が、未だにサングラスをかける機会は減っていない。
つまり、日常的に、外に出る際にはかけるようになったということだ。
ファッションとして、ということではない。サングラスをかけていると楽なのだ。何が楽といって、他人と視線を合わせることから解放されるというメリットだ。
私は中途半端な引きこもりを自称するくらいだから、あまり外出するのが好きではないが、それでも一人暮らしをしていると外に出ずに暮らすことは不可能。用事があれば電車に乗って遠出もしなければならない。
そういうとき、ミラー加工されているサングラスは必需品といっていい。
これをかけていると、他人と目が合うという、当たり前のことが無くなる。相手がこちらを見ていて、その視線とわたしの目がぶつかったとしても、相手に私の瞳は見えていないから、変に気まずい思いをすることもない。
それが楽で楽で、私はサングラスが手放せなくなってしまっている。あまりいい傾向ではないのかもしれないが。



もちろん、問題も無いではない。
ある知人に言わせると、サングラスをかけてると怖いよ、とのこと。
175cmで痩せ型、色白で筋肉質ではないという私がサングラスをかけていたところで、さほど怖いとも思えない気はするのだが、やはり茶髪がいけないのだろうか。ちょっと得体の知れない人間に見えるようである。
冒頭の写真は、今のところよく使っているサングラス2本のうちのひとつ。これをかけて、埼玉南部の某都市をふらふら歩いている茶髪の冴えない男がいたら、それが私だ。