妹の疑問

kotosys2005-10-23




たまに、妹がメールを送ってくることがある。
妹は実家がある山形県内で結婚していて、すでに言葉もはっきりしてきた娘がいる。
私は独身の首都圏住まいだから、「今度の連休は帰ってくんの?」「正月は帰ってくんの?」などの帰省に関する確認事項がほとんどだが、たまに違う内容の物もある。



先日は、「エビってなんで赤くなるの?」という疑問だった。
なんでも、晩御飯の用意をしているときに、娘がちょこちょこ寄ってきて、調理前のエビと調理後のエビとを見て疑問に思ったらしい。本人もそれに答えられず、ネット環境もない妹には調べようもなく、私に訊いてきたということのようだった。
もちろん、私が知るはずもない。
知らねーよ、とでも返せばそれで済むのだが、どうせ暇な人間のくせに、調べもしないでそう返事するのはちょっとどうかと思い、軽く調べてみることにした。



エビやカニの類は、生きているときから赤くなっている種類はあまりいない。それが、加熱されたり腐敗が進んだりすると赤くなる種類が多い。必ずしもそうなるというものではないが。
その原因は、赤く見せている物質に原因がある。アスタキサンチンという。
アスタキサンチンという物質、健康サプリメントとしてずいぶん取りざたされているようで、調べるのには苦労しなかった。私は健康オタクでもサプリメントオタクでもないからこれまで知りもしなかったが。



カニやエビは、固いからを持っている。甲殻類と呼ばれる生物で、そのからはキチン質という多糖体とたんぱく質、カルシウム塩などが複合した構造体でできている。固いからといって、カルシウムだけでできているわけではない。人間の骨などと比べると、カルシウム含有率はずっと低い。
その殻の中には、色素物質であるアスタキサンチンという物質も含まれているのだが、普段はこの物質はあまり見えない。
この物質自体は赤いのだが、エビやカニが生きている時点では、からの主成分の一つであるたんぱく質と結合していて、あまり色が出てこないのだ。
このたんぱく質との結合が解けると、からにアスタキサンチン本来の赤い色が浮かび上がってくる。たんぱく質との結合が取れる条件は、たんぱく質自体が崩壊すること。たとえば、生体が死体になったり、加熱されてしまったり。
だから、買ってきたパック入りのエビは赤くなくても、調理すれば赤くなってくるわけだ。
冷凍された状態では、たんぱく質が破壊されても、アスタキサンチンも一緒になって凍り付いているから、色は浮かばない。解凍するにしたがって赤みが浮いてきたりするのは、凍りついていたたんぱく質の残骸からアスタキサンチンが顔をのぞかせることができるようになったから、ということらしい。



このアスタキサンチンは主に藻類の体内で生成されるようで、食物連鎖によって、その藻類を食べる動物プランクトンや小さいエビなどを食べる魚にも蓄積されたりする。たとえば鮭の肉や卵はやけに赤いが、これはアスタキサンチンがその赤みの主成分なのだという。
だが、エビやカニの種類は大変に多く、中にはアスタキサンチンを含む藻類やその他のプランクトンなどを食べない種類もある。その種類は、当然ながら煮ても焼いてもからは赤くならない。
また、鮭以外にもアスタキサンチンによって赤くなる魚はいる。たとえばアナゴの焼き物を食べようとしたとき、皮のあたりが変に赤いなあ、と思ったことがあるのだが、それも偶然そのアナゴがアスタキサンチンを豊富に含んでいたからということらしい。
赤い鯛なども、その赤みはアスタキサンチンなのだそうだ。エビで鯛を釣る、というが、鯛もだてにエビを好んで食べてはいないということか。養殖物の鯛の色が黒くなるのは、このアスタキサンチンの不足と、養殖場が浅いために起こる日焼けのせいなのだというから、関係者にとっては馬鹿にならない話だろう。鯛は赤いかそうでないかで値がかなり違ってくるものだろうから。



このアスタキサンチンは分類上カロチノイドに含まれる。にんじんなどに含まれているカロチンの仲間だ。
非常に高い抗酸化作用を持っているとかで、検索するとそういった作用を強調したサプリメントの広告しか出てこないほどだ。
たいていそういった広告の情報は、半可通の人間が書いている上に、商売上平気で嘘をまじえたりするから、、鵜呑みにすると馬鹿を見たり危険な目にあったりする。抗酸化作用などといっているうちはいいが、抗癌作用とかいいだしている物があったら、注意した方がいい。タバコだって、肺がんのリスクを無視すれば他の癌に対する抗癌作用を持つ可能性があるとされているくらいなのだから。



妹からつい最近来た別の質問はぶっとんでいる。というより、考えたこともなかった。
のび太ってどこに住んでるの?」



んなもん知るかよ。
てかおれに聞くな。





私は漠然と「東京だろうなあ」と思っていたが、それ以上のことはわかるはずもない。そんな高級住宅地ではないだろうが、そんなに地方のこととしても描いてはいないはずだ、と。
一応検索をかけてみると、なんと調べている方がいらっしゃるから驚いた。しかもえらく詳細に。周辺地図まで起こしている。まったく、頭が下がる。
前項でリンクがどうのといった、その舌の根も乾かぬうちにリンクを貼ってみる。

検証・「のび太の町」を再現〜モデルとなった町はどこにあるのか〜


原作に、スネ夫の住所がちゃんと出ているそうだ。
「東京都練馬区月見台すすきが原3−10−5」
月見台以下は架空のものだが、練馬区に住んでいるという設定は存在するらしい。別の話からは後楽園球場から西北西にあるという傍証が得られるといい、練馬区という考え方に正当性を与えている。
のび太の家がスネ夫宅からそう離れているはずもなく、学区が同じなのだから、当然のび太の家もその近辺にあるはず。



もっとも、漫画という、束縛の少ないメディアだから、設定も当然ゆるい。原作の藤子氏も連載開始当初の時点では、東京の郊外程度の認識しか無かったようで、世田谷周辺の記述もあったりしたらしい。
もちろんフィクションだし、厳密なモデルがあると考える必要はなく、多分そこまできっちりとモデルを決めて書いていたわけではないだろう。ただ、連載を続ける中での小道具として住所を決める必要が出てきたときに、練馬区にしようと思い立ったというのが真相ではないか。



練馬区だそうだよ、という私の答えに、妹の反応は、「そんな都会に住んでたんだ」というもの。どうも、もっと郊外のほうに住んでいたと思っていたらしい。肩を並べてテレビを見ていたはずの兄妹でも、認識は結構ずれるものらしい。
というか、彼女は練馬区といわれてイメージが湧くのだろうか。まずそこが問題という気もする。しょせん、わが一族は鉄壁の田舎者である。