キーボードお買い上げ


意味もなくキーボードを買い換えた。
いわゆる衝動買い、というものだ。
そもそも電気屋に足を踏み入れたのは、シェーバーの外刃が欠けてしまったためだった。欠けたままだと確実にあごの皮膚をそぎとってくれるため、消耗品だと割り切って買い換えるしかないのがシェーバーの外刃というもの。
それだけにしておけばいいのに、久々に入った電気屋の店内をふらふらしているうち、マウスパッドがよれよれになっていたことを思い出し、どうせ安い買い物だからとPCの売り場に踏み入れてしまった。
最近のノートパソコンはやたら画像がきれいだねえ、まあ、んなの買う金ないけどねえ、などと思いながら売り場を探索しているうち、売り場の片隅、本当に片隅に追いやられているキーボードたちを発見してしまった。
別に今使っているキーボードに不満は無い。パソコンの前で飲み食いをする癖があるため、非常に汚れやすい環境下なのだが、その逆境の中でもめげずに働き続け、未だに購入当時から買い替え無しでキーのひとつも壊れずにいるその健気さには、愛情すら感じている。
ごめん、いい過ぎ。
だが、コーヒー責めにあったりココアの粉がぶちまけられたりしても、キーの動作不良ひとつ起こしていないのは事実。文句をいうほうが罰当たりというものだろう。
たったひとつ、わがままが言えるとすれば、キータッチか。
昔ながらのキーボードだから、ノートパソコンで一般的なパンタグラフ構造ではない。キーが厚く、キータッチが深い。
仕事で使っているのは、前職で技術職から営業職に回されて以来ノートパソコン。職場が変わった今も会社支給のノートパソコンを使っていて、手がノートのキータッチに慣れてしまっている。どちらのキーボードが使いやすいかといわれれば、ノートのキーボードの方がキータッチ的には良い。
ただ、10キーが無いキーボードは入力性が悪く、その点は完全にノートが劣っている。



キーボードコーナーにある何種類かのキーボードを見比べ、最終的に候補をふたつに絞った。
どちらもパンタグラフ構造の薄型キーを採用していて、もちん10キー搭載。変な特殊機能は必要ないので、やたらボタンが多かったりワイヤレスだったりするものではない。
片方は機能性が非常に良さそうで、エンターキーの大きさやキー配置なども優れている。もう一方は若干キー配置に難があるが、デザイン性に優れている。
ここで迷ってしまった。
普段の私なら間違いなくデザイン性を捨て、実用性に走っているはず。
だが今日の私はなぜかデザイン性に走ってしまった。
しかも、デザイン性の高さの代償か、そちらの方が1500円は高かったというのに。


ELPK106SV


シルバーの製品。しかし重いなこのページ。時間帯のせいもあるんだろうか。


早速使ってみての感想だが、今まで使っていたキーボードとは配置が異なるためか、単純な誤入力の回数が多い。こればかりは慣れの問題だから、製品の責任では無いだろうが。
特に、DELキーが思わぬところにある。スペースキーの右、3つ先。下側にINS、DELキーがあるという配置にちょっと戸惑ったりしている。
さらに、今時かな入力という希少種の人間にとって少々問題なのが、「ろ」のキーが、最下段の列に紛れ込んでいること。左スクロールとDELキーに挟まれているという絶好の立地にあるから、誤入力花盛り。滅多に使わない文字だからそこに配置されているわけだが、思わず右手の小指や薬指がふらふらと踊ってしまったりする。
一番の問題はエンターキーの小ささ。普通のキー2つ分の大きさしか無いため、右小指がずれて別のキーを叩いていたりする。


そういう問題があるということを店頭で確認していても、つい買ってしまった。
デザインに惹かれたといいたいところだが、製造元がいうほど造形に惹かれるものは感じていない。要はパンタグラフ構造のキーであれば良かったので、別の物を買ってきても何ら問題は無かった。
それでもこれを選んだのは、たぶん、もう一方の候補が、あまりに無個性だったからだろう。「私を選んで」という訴えかけがなかった、というところ。
キーボードを選ぶなどという行為が選択肢に無かった10数年前を考えれば隔世の感があるが、いまやパソコン市場も成熟市場になってしまい、少年期の私にはとうてい想像もできなかった、PCサプライ製品がコンビニやスーパーで買える時代になってしまった。マウスやキーボードもファッション感覚で選べるようになって久しいし、商品も多様化している。
ささやかながらその中に飛び込む機会になったわけだが、こういう市場になってくると、今回の私のように、ろくに考えもせずに「こっちの方が惹かれるやー」と買ってしまう消費者が増加してくるわけで、パソコンにそれほど思い入れもないライトユーザー相手に商売するには、機能面以外での付加価値を商品に盛り込む必要性が高くなってくる。
昔々、PC-8801というパソコンを見て、フロッピーディスクの差込口にあるレバーにときめいたという少年期を過ごした私にとって、近所の家電量販店でキーボードを選べる時代が来たというだけで(もちろん数年前からとっくにその時代だが)、ちょっと感慨深くなったりもするのだった。