図書館戦争


久しぶりにまともに一冊本を読みきった気がする。
GW中に「十二国記」を今さら読みしたり、おなじく「模倣犯」を今さら読みしたりしたが、その後はサボり気味だった。
今日も別に本を読む気はなく、遅い昼食を採ろうとして街に出たはいいが暑熱にいたたまれなくなり、涼みに入った書店で偶然、一冊の本を手に取った。


図書館戦争

図書館戦争


これはライトノベルの範疇に入るのだろうか。
私はライトノベルに何度か挑戦し、その度に撃沈して来た経歴を持つ。
もしこの本がライトノベルだというなら、久々に私でも読めるラノベに出会った、ということになる。ラノベで無いなら、相変わらず私とラノベの相性の悪さは維持されているということになる。
カテゴライズにさほどの意味があるとも思ってはいないのだが。


書店で目の端にタイトルが止まった時、私は著者が筒井康隆かと思った。
私は筒井の熱心な読者では全くなく、読了した本は片手の指で足りるほどなのだが、ほとんど偏見にも似た思い込みの中に、彼の作品には「図書館」と「戦争」というように、結びつきにくいものを結びつけて驚倒の物語を提示してみせるものが多いはず、というものがある。
寄ってみると、装丁もきれいだし、どこか不条理感を漂わせたカバー絵が目を引いた。
チラッと読んでみると、発想がいい。図書隊と良化委員会の血の抗争、主人公としてのポテンシャル充分のヒロイン、軽妙な台詞回し。
このところ、軍事ネタが軽く入るエンターテインメントというと、福井晴敏のものばかりだったので、彼のものに比べればずっとライトな読み口の本が気に入ってしまったという面もある。「Op.ローズダスト」も非常に面白かったのだが、ちょっと重かった。
ちなみに。


Op.ローズダスト(上)

Op.ローズダスト(上)


さして大部ではないから一気に読んでしまったが、それほど重々しい物語ではない。考えさせられる部分はもちろんあるし、激しい戦闘シーンもあるのだが、基本的に全ての描写が軽い。悪い意味ではなく、乾いた軽さがある。
重厚な物語と重々しい描写こそが文学である、などと強弁するほどの読書家では無いし、小難しい顔して小難しいものを読んでいられるほど無粋じゃない、と揚言するほど気取れもしない人間としては、たまにこういうのもいいな、と素直に感じた。
基本的に、この作者はライトな作風なのだろう。天下国家を俯瞰するような視座でもなければ、地面を這いずり回るような執念で細部を詰める視座でもない。
ちょうど青年誌でマンガにしてもいいような、気安さも現実感も適度にある語り口。高校生あたりに、夏休みの一日を潰して読んでみても悪くないよ、と勧めたくなるような一冊だ。


物語は、図書館が「良化委員会」という名の検閲機関との紛争状態に入っている世界で、読書の自由を守るために、図書館の武装組織「図書隊」に入隊した主人公が、暴走したりへこんだり妙な恋話に巻き込まれたり鬼教官にしごかれたり、という、ある種の青春ストーリー。
キャラは立っているし、撃ったり撃たれたりというシーンもあるが、それほど陰惨だったり凄絶だったりはしないので、安心して読める。
もちろん戦争礼賛の物語ではないし、願望充足の物語でもない。軍事オタクの喜ぶような描写もない。ホラーやスプラッタ好きが喜ぶような場面もまず無い。
気負わずに、エンターテインメントとして読むのなら、こういうものもいいと思う。
もっと胸を突くようなエンターテインメントを、というのなら、それこそ福井を読めばいい。映画化ラッシュも過ぎて旬から外れたところで、あえて読み始めるのも一興。
個人的には∀(ターンエー)ガンダムのノベライズがとても好きなのだが、これは多少人を選ぶ気がする。ガンダムの予備知識など一切無しで読めるのだが、SFがダメという人にはきついかもしれない。