ラテン語起源

カール大帝は、英語で「カール・ザ・グレート」ですが、カール大帝の仏語読みの、シャルル・マーニュの「マーニュ」は、英語での「グレート」の意ですか?


そうです。
古代ローマの言葉、ラテン語のmagnusから来ています。
「おおきな」「偉大な」などの意味です。
フランス語はラテン語起源なので、他にもたくさんラテン語起源の言葉があります。


ラテン系、などという言葉を使うとき、それはラテン語から派生した言葉を使っている人々のことをさす。本来は。
古代ローマ人の言葉、ラテン語は、カトリックの教会や学術用語として何とか生き残ってはいるが、生活語ではなくなってしまっている。
そもそも、どのように発音していたかすらわかっていない。
日本でラテン語を訳すとき、ドイツ語の読み方で訳す場合が多いそうだが、これは維新後の日本が学術を輸入する際、ドイツ系のお雇い教授を多く受け入れたり、ラテン語を使う機会が多い医学の世界でドイツ医学を教師としていたからだといわれている。
だが、ドイツ語はラテン語派生の言語ではない。ドイツ語は英語同様ゲルマン諸語だから、ラテン語とは起源が異なる。



ラテン語起源の言葉で最も話されている言葉はスペイン語ポルトガル語だろう。大航海時代の殖民世界の影響で、今でもイベリア半島起源の言葉を国語としている国が多いからだ。
イベリア半島はわりと早いうちからローマに征服されていて、土地の言葉とラテン語が融合し、次第にスペイン語ポルトガル語の原形が出来上がっていった。
ただ、イスラム社会に飲みこまれたり、ギリシア語などの影響を受けたりして、ラテン語の影響の度合いは、他のラテン系の言葉に比べて薄いらしい。



冒頭の質問に答えているとおり、フランス語もラテン系の言語。
フランスは、古代ローマで最も有名な男、カエサルが征服してローマ社会に加えられた。2000年以上前のことだ。
それまで話されていたのは先住ケルト人の言葉だが、ローマ社会の共通語としてのラテン語を受け入れ、大きく影響を受け、フランス語としての原形が出来上がっていった。
だから、ラテン語起源の言葉などいくらでもある。というより、ラテン語起源の言葉を抜いたら、フランス語は成り立たない。
ただ、ローマが滅んだあと、フランスを支配したのは「蛮族」ゲルマン人たちの群れ。ラテン語の影響を大いに受けているとはいえ、やはりゲルマン諸語の影響も大きい。



その南の国、そもそもローマが生まれた国、イタリアの言葉も、当然ながらラテン語起源。
ただ、いかにイタリアがローマを生んだ国土とはいえ、ラテン語自体はもともとイタリア半島中部で話されていた一方言に過ぎなかった。ローマが拡大する中でイタリア中の共通語になり、地中海世界の共通語になっていったが、あくまで共通語である。
イタリアの山岳地帯では、ローマに滅ぼされたり同化政策で飲みこまれたりする以前から使われていた言葉が、けっこう長い間使われていたようだし、海岸の諸都市ではギリシア語が商売の共通語として使われることも多かった。
現代のイタリア語は、イタリア中部のフィレンツェあたりの方言が基礎になっている。トスカーナ地方、というのだが、ここで生まれた作家たちの言葉を基礎として、文学や演劇の中で育まれていった部分が大きい。
だから、現代のイタリアの首都ローマで使われている下町言葉と、現代イタリアの標準語では若干の違いがあるし、ヴェネツィアあたりの言葉も若干違ってくるということが起きる。


東欧のルーマニアという国。
あまりローマとの関わりはなさそうだが、実はラテン語に最も近い言葉が生き残っているのでは無いかといわれているのがこの国の言葉である。
理由は簡単で、この国はもともとダキアと呼ばれた地域なのだが、この地域が散々乱を起こすため、ローマの平和を樹立すべく、当時の皇帝トライアヌスが住民を根こそぎ他の地域に移住させ、ローマやその同盟諸国の兵士たちを殖民として入れ替えてしまったからだ。
当時の共通語であるラテン語ダキアの共通語になり、当然歴史の移り変わりの中で様々な文化の影響を受けつつも、現代でもラテン諸語のひとつを構成する国になっている。


非ラテン系であるはずの英語にラテン語の影響が無いか、というと、実は大いにある。
たとえば月の名前などは思いっきりラテン語起源。詳しくは述べないが、調べようと思えばすぐわかる。辞書にも載っている。
そもそも英語は、もともとブリテン島に住んでいたケルト系民族の言葉と、民族大移動で東欧から流れてきたゲルマン系の民族とが混血して出来上がっていったもの。ドイツあたりのゲルマン諸語との違いが大きいのは、そういう起源に遠因がある。
そして、英語は、フランス語の影響を多分に受けている。
それは、歴史的にフランスの貴族や王族がイングランドの王朝に深く関わり、占領したりされたりをくり返していたためだ。
イングランドの住民が(あえてイギリスとはいわない)外の世界に触れようとすると、どうしたってフランスが最も近い国であるということもある。
また、それより以前に、イングランドはローマの征服を受けている。
近代から現代のイギリスで多分最も有名な政治家であるチャーチルが、英国の歴史はカエサルから始まった、といったそうだが、確かにカエサルも足を踏み入れている。
ただ、カエサルの場合は当時ガリアと呼ばれたフランス制服事業の邪魔になるイングランド先住民を先に叩くために来たのであって、別に占領する気は無かったようだ。
実際にローマがイングランド周辺を征服するのは、ローマが帝政に入り、あの有名な悪帝ネロの時代も過ぎてからの話になる。
その後長いローマの時代があって、民族大移動によってローマが崩壊し、ラテン語交じりの言葉を話す先住民とゲルマン系の部族とが混血し、前述のとおりの経過で英語ができていった。
フランス語あたりと比べればはるかにゲルマン諸語の影響が強いとはいえ、ドイツ語やオランダ語などと比べればずっとラテン語の残滓が多い。


ヨーロッパの古語ともいえるラテン語だが、未だに書き言葉とはいえ生き残っているのは、教養語として根付いているせいもあるが、キリスト教の影響も大きい。
キリスト教会の多くが、ラテン語を共通語として使っているからだ。
特にカトリック教会は、古代ローマそのままの発音ではないが、ラテン語を話すところが多い。バチカン公用語ラテン語である。イタリア語の発音だそうだが、私はイタリア語の素養も無ければ教会でラテン語を聞いた経験もないので、なんともいえない。


以上、長々と思いつくままに。